RWCP 実環境音声・音響データベース 解説: 残響時間 |
ATR音声言語通信研究所 第一研究室 中村 哲、西浦 敬信
http://www.slt.atr.co.jp/dept1/index.html
| 1.はじめに |
残響時間とは、室内音場を評価する最も基本的な概念で、響きの長さを表 す量。室内に放射された音が平衡状態に達したのち、音を急に停止し、その後 の残響エネルギー密度が音源停止直前のエネルギー密度に比べて100万分の 1(-60dB)になるまでの時間を秒単位で表したもの。残響理論は室内で拡散音場 を仮定して導かれているため、吸音材料はどの位置に置かれていてもその効果 は変わらず、音源や観測の位置がどこにあっても残響時間は変わらないとされ ている[1]。次章より残響時間の測定法について述べる。
| 2.残響時間の測定法 |
ここでは、建築音響の残響時間の測定法[2]、およびディジタル信号処理を用いた音響計測技術として2乗積分法による残響測定[3][4][5][6]について紹介する。
| 3.建築音響の残響時間の測定法 |
図1は残響時間の一般的な測定方法を表したものである。音源としては、通常のバンドノイズを用い、室内の1点に置かれたスピーカから数秒程度の時間間隔ごとに断続的に放射する。受音は室内になるべく一様に分布するように選んだ多数の測定点で無指向性マイクロホンを用いて行なう。

分析はオクターブあるいは1/3オクターブバンドごととし、それぞれの測定点で音源停止後の残響減衰を数回ずつ測定してその平均を求める。残響減衰の記録は通常、高速度レベルレコーダ(等速応答形)を用いて音圧(実行値)の減衰を直線化して記録する。その傾斜を専用の分度器を用いて読みとることにより、残響時間が求められる。拡散性のよい室内では、直線的な減衰が観測されるが、場合によっては途中で折れ曲がりが見られることもある。これは、拡散性が低い室内などでしばしば生じる現象で、エネルギーが大きい3次元モードの減衰に続いて、減衰が遅い低次モードが残るためである。
残響時間の測定周波数としては、音響特性を特に重視するオーディトリアムなどでは1/3オクターブバンドで63Hz 〜 8kHz程度とするが、簡易測定としては、オクターブバンドで125Hz 〜 4kHz程度とすることもある。測定結果は、各バンドごとに多数の測定点における結果を平均し、その室の残響時間とする。
| 4. 2乗積分法による残響測定(デジタル信号処理による音響計測技術) |
一般の音響測定では定常信号を対象とすることが多く、その場合には音圧などの測定信号の実行値(RMS値)が測定される。一方、非定常信号を対象とする場合には、しばしば信号の2乗の時間積分値に着目した測定が行なわれる。 室内音響特性の測定などで1点から音を放射し、他の1点で受音する測定システムを単純化すると図2のように表せる。

このような線形系にランダムノイズn(t)を入力し、それをある時間(t=0)で切った後の出力yd(t)と系のインパルス応答h(t)との間に次式の関係が成り立つことがM. R. Schroeder により導かれている。
(1)
| 5. 収録に使用した残響時間測定法 |
本収録では、部屋のインパルス応答を中心に測定しており、各室内におけるイ ンパルス応答を利用でき、かつ1回の測定で残響時間を計算できることから、2 乗積分法を用いて残響時間の計算を行なっている。付属の[サンプルプログラム]により残響曲線を求めることができる。この残響曲線において減衰量が60dBになる時間が残響時間となる。しかし、実際には60dBまで2乗積分値が減衰しないことが多い。例として 測定したインパルス応答から残響減衰曲線を求めた例を図3に示す。このよう に減衰量が60dBに達しない場合、残響曲線の傾きから残響時間を推定すること が一般的である。すなわち、残響曲線の傾きが顕著な区間を推定し、その区間 における変化量(傾き)を求めて、60dBまで減衰させたときの時間を推定する。 図3において、選択した2点間の減衰量が20dBであることからこの区間における 時間の3倍(60dB / 20dB)が残響時間となる。

| 6. 参考文献 |
[1] 日本音響学会, ''音響用語辞典'', コロナ社, pp. 217, 1988 [2] 永田穂, ''建築音響,'' コロナ社, pp. 126-127, 1988 [3] M. R. Schroeder, 'New method of measuring reverberation time'', J. Acoust. Soc. Am., Vol. 37, pp. 409, 1965. [4] 矢野博夫,橘秀樹,''2乗積分法による音響測定'',音響技術, Vol. 6, No. 3, pp. 241-245, 1977. [5] 永田穂, ''建築音響,'' コロナ社, pp. 136-137, 1988. [6] 大賀寿郎, 山崎芳男, 金田 豊, "音響システムとデジタル信号処理," コロナ社, pp. 163-164, 1995.[実環境音声・音響データベースのホームに戻る]