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RWCP 実環境音声・音響データベース
スウィープエコー(時間とともに周波数が上昇するエコー)

日本電信電話株式会社 サイバースペース研究所
http://www.ntt.co.jp/cclab/

1.スウィープエコーとは

比較的 反射率の高い対向壁の間でハンドクラップ(拍手1回)などの短音を 発生させると,対向壁間で多重反射が起こり,特定の音色のフラッターエコー (鳴き竜)が生じることはよく知られている.このフラッターエコーの周波数 成分は一定の周波数を保っている.しかし,反射率の高い壁・天井・床で囲ま れた室(整形残響室)内で短音を発生させたときには,その反射音の周波数は 時間に比例して直線的に上昇する.この事実は一般にはあまり知られていない. この反射音は,フラッターエコーと区別して「スウィープエコー」と名づけら れた.以下に,その生成機構について解説する.

2.整形残響室で知覚されるスウィープエコー

図1の整形残響室(11m×8.8m×6.6m(高さ))内で短音を発生させたときに sweep音が知覚されることは,一人の研究員によって偶然 発見された.この研 究員がこの残響室の中を歩いているとき,靴音の残響音とは異なる,異質な音 が聞こえることに気付いた.手を叩くと更に明瞭にこの音が聞こえ,音の高さ が上昇していく様子が聞こえた.この音を収音し解析を行った結果,確かに反 射音の周波数が時間に比例して直線的に上昇するsweep音が観測された.図2 にそのスペクトログラムを示す.横軸が時間,縦軸が周波数を表す.同図から, 始めに約0.4秒の間に約1.5kHzまで上昇する第一のsweep音と,それに続いて比 較的 緩やかに周波数の上昇する複数のsweep音が観測される.前者は比較的エ ネルギーが大きいことから主sweep音と呼び,後者は副sweep音と呼ぶ.これら のsweep音の生成機構は、以下に述べるように、整数論の知見を利用すること により説明することができる。ただし、簡易化のため,室形状は立方体を仮定 した。

なお,[音を聞く]をクリックすると図2の音を聞くことができる.

[音を聞く]


図1:スウィープエコーが発見された直方体残響室


図2:スウィープエコーのスペクトログラム

3.整形残響室内での反射パルス音の時間構造

図3は立方体室で生成される鏡像を表す.但し,音源(点音源)Sも受音点Rも 室の中心にあるものとし,この中心を座標原点にとる.室の寸法をLで表すと, 各鏡像の座標は(nxL, nyL, nzL)で表される. 但し,nx, ny, nzは正負の整数 である.この鏡像から受音点Rまでの距離dはピタゴラスの定理により,次式 (1)で表される.


図3:立方体室で生成される鏡像

反射パルス音が受音点Rに到達する時刻tは距離dを音速cで割ることにより次式(2)で表される.

式(2)から明らかな通り,到達時刻tは正負の3つの整数 nx, ny, nz の平方和の関数として表される.では,この平方和はどのような値をとるかが問題になる. 簡易化のため時刻tを二乗して二乗時刻t2上で考えると、次式(3)となる.

整数論の知見[1]によると,このMは次式(5)の右辺の整数(禁止数)を除く全ての正の整数をとる. 但し,k, m = 0, 1, 2, … である.また、この禁止数は正の整数全体の1/6を占める.

4.主sweep音の生成機構

禁止数が正の整数全体の1/6であるので、これを無視して考えると、3つの整 数の平方和Mは、近似的に全ての正の整数をとる.そして反射パルス音列は二 乗時間軸上で等間隔(L/c)2で並ぶことになる.すなわち,(n+1)番目とn番目の 反射パルス音との到達時刻tn+1, tnの二乗時間軸上での間隔は 次式(6)のように(L/c)2になる.

ここで時刻tn+1と tnの平均時刻 tm=(tn+1+tn)/2を考え,式(6)の左辺を因数 分解して整理すると,時間軸上での間隔が次式(7)のように表される.
パルス音列の時間間隔が時刻tmに逆比例して減少していくことが解る. このことは図3の鏡像で, 遠方にある鏡像(高次反射)ほど隣接する鏡像から受音点Rまでの行路が並行に近くなり, 従って行路差が減少することからも明らかである.

ここでパルス音列の周波数を考える. 等間隔パルス音列の周波数はパルス音列の時間間隔の逆数になる. そこで式(7)の反射パルス音間隔を短時間的には等間隔と近似し, 時間間隔の逆数がその基本周波数f(tm)になると考えると次式(8)を得る. すなわち、基本周波数f(tm)は、時間に比例して上昇する。 これが主sweep音の基本周波数となる.

5.副sweep音の生成機構

前節では3つの整数の平方和Mが全ての正の整数をとると近似したが,実際に は禁止数のため反射パルス音が存在しない時刻がある.図4(a)はその様子を 示した例である.但し振幅は等振幅に正規化している.図4(b)はMが全ての整 数をとったときのパルス列を時間軸上で表したものであり,時間の経過ととも に単調にパルス列間隔が減少している.これに対し,図4(a)には禁止数のた めにパルスの欠落が生じている.この欠落は,禁止数に相当する時刻のパルス が図4(b)のパルス列に逆相で(図4(c))加算されたものと考えることができ る.

式(5)に示した通り,禁止数は4k(8m+7) (k,m = 0, 1, 2, …)で表される.k = 0のとき,これは周期8の周期数列になる.すなわち,二乗時間軸上では, この禁止数は周期8(L/c)2で等間隔になる. この周期は主sweep音の周期(L/c)2の8倍なので, その周波数は主sweep音の1/8と上昇が緩やかになる.k = 1, 2, …, の場合は更に周期が長くなり,周波数の上昇は更に緩やかになる.こ のような禁止数の効果が副sweep音の生成機構と考えられる。


図4:副sweep音の生成機構
(a) 禁止数による反射パルスの欠落 [上]
(b) 二乗時間軸上で完全に等間隔なパルス列 [中]
(c) 図3のパルス列に逆相で加算される禁止数パルス列 [下]

参考文献
[1] M. R. Schroeder著,平野・野村共訳,"数論(上)",コロナ社 (1995) pp. 127-128.
[2] 清原,古家,金田,"整形残響室内で知覚されるsweep音の生成機構",信学技報(EA2000-19).
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